2014年8月22日、ワイオミング州ジャクソンホールで開催された経済シンポジウムにおいて、FRBのイエレン議長が講演の際に用いた表現。当面のゼロ金利継続の根拠とする「労働市場のたるみ」を示す指標の一つとして、賃金上昇率の低さが挙げられています。2009年頃まで前年比3%台で推移していた賃金上昇率が、リセッション以降(2010年以降)は2%前後での低迷状態が続いているからです。
しかし、この状況には、注意しなければならないことがあり、その一つがペントアップ賃金デフレ(pent-up wage deflation)という現象である、とイエレン議長は述べています。
ペントアップ賃金デフレ(pent-up wage deflation:抑圧された賃金デフレ)とは、リセッションの時期に従業員の士気を保つために、雇用者が賃下げを控えたことにより、景気の深刻な落ち込みにもかかわらず、賃金は高めに推移。その結果、景気が回復し始め、労働市場が改善しても、賃上げの必要に迫られない可能性がある、という現在の状況を指しています。
実際に、賃金上昇率の推移チャートを確認すると、2008年6月に前年同月比2.67%へと一時低下したものの翌月には3%を回復し、リーマンショックを経て世界的金融危機となった2009年4月まで3%以上での推移が続いています。
リセッション時に賃金デフレが見られなかった事によって、失業率が低下しても賃金インフレの加速も見られない、ペントアップ賃金デフレの状態はしばらく続き、いずれ完全雇用状態に戻った時、賃金インフレは急速に加速し始める可能性がある、ということなのだそうです。
この理論どおりなら、そう遠くない、いつの日か、突如訪れる可能性のある賃金インフレ急騰に備えて、米国の平均時給の推移動向への警戒感は高まります。上昇率が上向いた時には、既に政策金利の引き上げフェーズに入っていることが、好ましい状況と言えそうです。
と同時に、賃金インフレ急騰が消費者物価のインフレ急騰を引き起こし、米国経済の混乱を招かないように、早めの利上げを行うべき、というタカ派的論法につながるような、タカ派メンバーに配慮した一面もあった、イエレン議長の講演でした。
最終更新:2014年08月28日