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「不安定の弧」
2001年9月11日に発生した米国同時多発テロの翌月、米国防総省による「国防戦略見直し」のなかで使用された、特定地域を指す呼び方。その地域は、ユーラシア大陸南部の、西は中東から東は朝鮮半島に至るまでの大きく円弧を描く地帯のこと。この、不安定の弧(arc of instability)と呼ばれる地域では、軍事衝突が起こりやすく、治安上も不安定な状況に陥りやすい場所が多数含まれ、米軍による関与強化が必要とされた地域。
2000年代には、不安定の弧エリアに対する米軍の関与は強化されていたといえる状態が続いたものの、2010年代には状況も変化し、徐々に距離を起き始めることに。
2003年のイラク戦争以降、治安維持の為に駐留を続けたイラクからは、2011年12月に完全撤退し、2014年5月にはオバマ大統領がアフガニスタンへの駐留米軍の順次撤退と2016年までの完全撤退方針を発表。
その一方で、2014年4月に米国はフィリピンとの新軍事協定に署名し、米軍は22年ぶりにフィリピン再駐留へ。背景には、中国による南シナ海進出をけん制する狙いがあると推定されます。
その、南シナ海でのトラブルなどを含め、2014年には、米国の影響力が弱まったエリアを中心に、不安定の弧周辺では、様々な紛争やトラブル、地政学リスクとなって市場にも影響を及ぼすような事象も多数発生しました。
東側から見てみると、北朝鮮の核開発問題やミサイル発射は続き、中国とフィリピン、ベトナムなど複数の国が絡む南沙諸島と南シナ海の領土・領海問題に伴う相次ぐ小競り合い、中国北部のチベット・ウイグル自治区などの民族問題を背景とする反政府運動や暴動、無差別殺傷事件なども後を絶ちません。タイでは前年から続いた反政府デモがこじれ、政局混乱から5月には軍による戒厳令が発令され、1932年以来19回めのクーデターへ。
そして中東では、内戦が続くシリアの東、米軍撤退後のイラクへ、アルカイダ系の武装組織「イラク・シリア・イスラム国」が侵攻し、イラク北部を制圧し「イスラム国」の樹立を宣言。そのイラクの西側、シリアの南、イスラエルのパレスチナ自治区ガザでは、この地域を掌握するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルとの緊張が高まり、民間人1000人以上の死者を出す軍事衝突へ。
イラクとシリアから北へ、トルコを超えた黒海北部にあるクリミア半島はロシアに併合され、2014年初頭まで属していたウクライナ東部では親ロシア派とウクライナ政府軍との衝突が続きます。そして、その親ロシア派を後方支援しているとされるロシアは欧米からの非難を浴び、経済制裁合戦も続きます。
こうして2014年には、不安定の弧と呼ばれるエリアはやや北へとその範囲を拡大し、連鎖的に地政学リスクが発生しました。そして、安全資産とされる日本円や金が買われやすくなる場面が度々生じたことにより、2014年7月末時点でドル円は年初から2.37%の円高が進み、NY金相場は年初来6.57%上昇しました。
最終更新:2014年08月07日
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